◇大切な宝物

入社まもなく営業に出始めた頃の話しです。
相談者は小学4年の女の子、円形脱毛症の相談でした。

駅からしばらく歩いて着いた家は平屋、玄関は開けっ放し、どこか開放的な田舎の臭いがするそんな住まいでした。
「こんにちは！」と玄関に入っていくと、台所にいた女の子がこちらをゆっくりと振り向きました。
私は思わず目が点になり、心臓の高鳴りが中々治まりません。

理由は、初めて目にする円形脱毛症に私は動揺してしまったのです。
円形脱毛症というとコインのような丸い脱毛を想像しますが、この女の子は全く髪がありません。
それどころか「まゆ毛」も、「まつ毛」も、一本もありません。
こちらを振り向く様は、無表情に見え、なにか見てはいけないものを見てしまったような、とても生々しい瞬間だったのを今でも思い出します。

無表情に見えたのは毛が無いせいで、一瞬そう見えたからです。
本当は笑顔が似合う素敵なお子さんです。

円形脱毛症には、ツムジのあたりにできる単発型、頭のあちこちにできる多発型、全体が抜けてしまう全頭型などがあります。
彼女の症状は、難治性と言われる全頭型の円形脱毛症でした。
今思えば経験も知識もない私にとって、仕事とはいえかなり刺激的でショッキングな出会いでした。

円形脱毛症の原因というと色々な説がありますが、よく言われるのが精神的ストレスです。
これまでお会いしたお子さんに共通して言えることは、物静かなどちらかというと我慢強いタイプのお子さんだった様に思います。
私の中にはやはりストレス説が有力だと勝手に思い込んでいます。

あれから二十年以上の月日がたちましたがこれといった特効薬はまだありません。

昨日「瑠璃の島」というドラマをみました。
主人公を「瑠璃ちゃんと呼んでくれる友達は私の片手で足りる」「そんな少ない私の大切な宝を神様は私から奪った」というシーンがありました。

大切な「宝」．．．．あなたの宝はなんですか？

失って始めてわかる宝物があります。

話しはそれてしまいましたが、普段は何とも思わないあって当然の「髪」ですが、髪を失くした少女にとって、髪は言葉では言い尽くせないとても大切な「宝物」だったに違いありません。

◇髪業

週末に飲みに現れる〇〇さん。
彼には誰にも言えない秘密があります。

風の強い日、雨の日はいつも髪が乱れています。
そう、彼はカツラーなのです。

年齢不詳、会社のオーナー、自慢話は横浜の高台に立つお屋敷と、熱海の別荘、そしてお気に入りのベンツです。
そんな誰もがうらやむ生活なのですが、悩みは「髪」？！

いつものようにカウンターに座った彼はビールを注文、かけつけ二杯、おいしそうに飲んでいる時の話しです。

顔を覚えていた店の女の子が「あぁぁらいらっしゃい！」と後ろから挨拶、軽く肩をたたこうとしたその瞬間、〇〇さんは素早く、もののみごとにその手を払い除けたのです。

正に「髪業」！(-.-;)

そして、そのけんまくときたらすごい怒りようです。
説明にならない興奮で「ビックリするじゃないか！」云々.....。
女の子は唖然！ショックを隠しきれません。

カウンターの後ろは狭い通路、人が通るたびに〇〇さんの挙動は乱れ、冷や冷やものです。何もこんな狭い所に座らなくても、もっと広いソファーでゆっくり飲んだら良いのにと思うのですが、この場所から移ろうとはしません。

チョット変わり者の〇〇さん、自分を守る為、いや、髪を守る為、いつの間にか身につけた「かみわざ」ですが、人もうらやむリッチな反面、カツラーの充たされぬ一面を覗き見た瞬間でした。

◇十月の木の葉髪

「十月の木の葉髪」という慣用句があります。
ここの十月とは陰暦で、冬近い頃の抜け毛を落ち葉にたとえていった言葉だそうです。

なにか寂しく切ない言葉ですね。

「木の葉髪」は１１月の季語でもあるそうです。
他に冬紅葉（ふゆもみじ）、紅葉散る（もみじちる）、落葉（おちば）、銀杏落葉（いちょうおちば）、柿落葉（かきおちば）、枯葉（かれは）、木の葉、などもこの月の同じような季語ですが、「木の葉髪」には他の季語にない人の臭いを強く感じます。

そこで失礼して私も一句、.....?
だめだ！何も浮かばない。（笑）

さて夏場は強い紫外線、強い日焼け、汗や脂、チリやホコリなどで頭皮の環境は試練の季節といっていいかもしれません。
「木の葉髪」にならない様に、早く夏モードをリセットして髪に優しいヘアケアを心がけましょう。

やはり私は俳句という柄ではありません。そんな私が面白いと思った一句を紹介します。
「ビートルズ愛した奴も木の葉髪」 彦阪義久

◇髪の毛も本望！

先月、高波の為フィリピン海域でタンカーが沈没した。
フィリピンのギマウス島という沖合で沈没し重油が流れ出し、サンゴやマングローブといった海岸を汚染しているという。

重油汚染というと湾岸戦争で重油が流れ出しその重油にまみれた「水鳥」が途方にくれボーットたっていた一枚の写真を思い出す。

重油量は２０万リットル程で重油を除去するのにはそうとう長い年月が必要、自然環境への深刻な影響は避けられないとの事だ。

そこでフィリピン政府が注目したのは「髪の毛」。

除去作業の物資不足を補うため「髪の毛」を集め始めた。
何に使うかというと、羽毛などと一緒に袋に詰めて袋を海に浮かべ、重油を吸着させる除去方法らしい。
苦肉の策としか思えないが、フィリピン全土から「髪の毛」が集まっているという。

しかし髪もこんな使われ方をするとはさぞかし「ほん毛」に違いない。

＜記事＞
日テレＮＥＷＳ２４

◇養毛剤の起源

古代エジプト時代、クロコダイルの脂肪とカバのフンを混ぜ頭に塗っていたのが養毛剤の起源といわれています。

確かに水中でのカバのフンは多様な生態系を支えているという話は聞いていたけれど、髪の為になるとは....！？
でもどうしてワニとカバのそれもフンなんでしょう。

くさい臭いに耐えれるかな？

やっぱりくさいよりは甘い香りの方がいい！

１９世紀初頭になってイギリスで大流行した養毛剤に「マカッサル」油があります。
実はこの養毛剤は「イランイラン」から抽出したもので「いらない」ではなくてそれどころかとても人気があったそうです。

その人気はアメリカでも絶大な人気で、あのロックフェラー財閥の初期の頃はこの「マカッサル」油を大きな収入源にしていたとの事です。

「育毛剤市場」は今も昔ももうかるんですね！

ちなみに「イランイラン」は現代でも香水やエッセンシャルオイルとして利用されているとの事です。

■「イランイラン」
マレー語で「花の中の花」とゆう意味。
熱帯樹木で２０ｍ程成長する高木で黄色・ピンク・藤色などの花を咲かせ、とても官能的でエキゾチックな香りを出すそうです。
なんだか見ているだけでふら～っときそうな「イランイラン」です。

◇脱毛恐怖からの解放

ギリシャの哲学者アリストテレスは、「人はもっとも著明にハゲ、思春期以前にハゲる事はなく、去勢された宦官（かんがん）注（1）もハゲない」。
と男性型脱毛と男性ホルモンの関係を説きました。

そして２０世紀に入りアメリカのハミルトン医師によって、男性型脱毛症の進行を引き起こす要素は、遺伝的要因と男性ホルモンの両方が関与していることを立証しました。

古代より長い長い時間をかけ少しずつ明らかになってきた脱毛のメカニズム、はたして脱毛の恐怖から解放される日はいつ訪れるのでしょうか・・・。

注（1）宦官＝去勢された官吏の事。元々は刑罰として去勢、その後皇帝などで仕えるようになった。中国の宦官で「史記」を残した司馬遷（しばせん）は有名。

◇髪フェチ

世の中色んなフェチがいるものだ。

人には自覚の有無に関わらず何らかのフェティシズムを持っているらしいが、何だか、滑稽さと、悲しさと、寒気を感じないではいられない。

しかし感性も好みも違う我々、色々あっても不思議はないのかも知れなが...。

髪の文化史（荒俣宏）によると、「自分の歯で女性のアンダーヘアを引き抜く事に快楽を感じる人」

「女性のアンダーヘアを集めそれを口に入れ噛む時に喜びを感じる人」

「カツラを着けた妻に興奮しカツラを着けない妻には興味がない夫」

「女性のアンダーヘアだけで作ったカツラを着けていたというイギリスのチャールズ２世など」

人類にとって髪は性的シンボルを発する数少ない肉体機能の一つであるというのだが、この奇妙な形、度を越すとただの変体でしかない。

◇髪の毛と醤油

髪の毛で醤油が造れるのを知っていましたか？
どうも想像がつかないですよね！

醤油の原料は大豆、小麦、食塩です。
醤油の色や旨みは、たんぱく質から得られたアミノ酸とでんぷんから得られたブドウ糖が組み合わされ生まれるものだそうです。

髪の毛は知っての通りケラチンというタンパク質からできています。ケラチンは髪だけでなく爪や皮膚の角質層を形成する成分で、18種類のアミノ酸が結合してできたタンパク質です。

実はこのアミノ酸に目をつけたわけです。

ほんらい大豆と小麦でアミノ酸を抽出しますが髪はアミノ酸そのもの。何故こんな事を考えたかというとコストの削減というから驚きです。

製造元は中国の業者らしいですが、中国当局はガンを誘発する物質が含まれているという理由で生産禁止命令を出しているとか。

しかしそれも恐い話しです。
ガンの物質が含まれていなければＯＫ！ということでしょうか。

そういえば「カツラ」で使う人毛はほとんど中国産です。
僅かな金額で仕入れる業者がいます。
でも最近は人工毛の開発が進んでいるから業者も必死なのか！？

髪が一本料理にまぎれていても気持ちが悪くなるのに...
誰のものともつかない髪を掻き集め、煮込んでいた醤油を料理に使っていたとは地獄の沙汰としかいいようがありません！

livedoorニュース
髪の毛で
醤油ができる！？　密造される毛髪醤油

◇掻き毟る

フケの件で「カユミを我慢しろというのは無理な話し」と書きましたが,
この掻き毟るの「むしる」は毛に少ないと書いて「むしる」と呼びます。

なんだか興味がわき少し調べてみました。少しワクワクしながら辞典を広げるも詳しくは載っていません。

ただ「毛をつかんで抜く」とあるだけです。

なにかとても残酷な意味がありそうな気がしてなりません。

たとえば一本の白髪を抜く時は「毛をつまんで抜く」とか「髪をつまんで抜く」とかは言いますが「毛をつかんで抜く」とはあまり言わないと思うのですがどうでしょうか？

もしかして拷問？

つかむは「手でつかむ」つまり手で力強く「抜く」ということですよね！

とても痛々しい感じになってきました。
痒くて「掻き毟る」少しつながってきたようなかんじですね！
つまり手で力を込めて「強引にでも引き抜く」という意味になります。

これ以上の想像は私には無理。
そこでインターネットで調べてみる事にました。
やはり情報は少ないのですがたどり着いたのはこんなところでした。

「宇治拾遺物語」三川の入道・遁世の事［巻第四・七］

かくて前にて、生けながら毛をむしらせければ、しばしは、ふたふたとするを、おさへて、たゞむしりにむしりければ、鳥の、目より血の涙をたれて、目をしばたゝきて、これかれに見あはせけるをみて、え堪へずして、立て退くものもありけり。

なんだかとてもおぞましい生け贄の光景です。

この物語、冒頭から血生臭く退廃的な場面から始まります。
「毟る」の語源はは分りませんがこのようなところにたどり着くとは...。

この場面「芥川龍之介」羅生門の一節を思い出します。

羅生門の中へ入ると、人の気配がする。それは悪事であると認識してはいるが、生活の糧を得るために死人の髪を抜く老婆であった。彼女はそれを、自分が生きるためであり、この死人も生前生きるための悪を働いたから、髪を抜くことは許されるであろうと言う。

ここでは「毟る」ではなく「抜く」です。
猟奇的な場面で凄みをます「毟る」という文字、今日は寝苦しい夜を向えそうです。

◇初仕事

新橋の桟橋から最終船に乗って伊豆大島へ！
師走とあって寒さが身にしみる。
船は休日前の釣り客で混雑。
三等の船底で雑魚寝。

私は入社２ヶ月目の新人営業マン。
軍隊さながらの教育を受け（軍隊がどのようなものか知らないが）
初めての営業出陣だった。

早朝５時頃港に到着。
「都はるみ」の涙の連絡線を口ずさみながら、初めて踏んだこの地に愛着さえ感じていた。

外はまだ薄暗く寒さが体にこたえる。
ハブまではバスで行かなければならず始発を待つ。

しばらくすると３人組の若い男女がカセットを鳴らし、聞きなれない唄を歌いながらこちらに向かってきた。

外人さんだ！
飛んだり跳ねたりにぎやかなグループだ！
歌は途切れることなくバスが来るまでズーット続いた。

１時間程待っていざハブ港へ！
初めて見るハブ港は波も荒くチョット淋しい。（歌の文句みたい）

これから行く所は教員宿舎。
小学校の先生３０歳である。

着いた家は平屋２Ｋ程の広さ、人の良さそうなやさしい感じだ。
髪は１：９分け、前頭からつむじ辺りまで産毛状態。
一般的な男性型脱毛症である。

初めての営業、何から話してよいのか頭が真っ白状態。
緊張のあまり何度もトイレへ行き商談を整理、なんとか１１０万で契約をする。内訳は当時はやった○○○増毛法＋スペアである。
納品は月に一度都内に行くとの事で難なく決まる。注文だ！

商談の最中に地元の来客がよく来る。
それも手土産を持って（採れたての野菜、さかな）玄関からではなく裏手から突然入ってくる。
「先生○○持ってきたよ！」って
その度にビクッとして商談の道具をかたずけるが、中々ほのぼのとした光景で緊張した心も和む。

まるで小豆島の「二十四の瞳」を思い出すような数時間が過ぎ、帰りの船の途につく。